お役立ち情報・サステナビリティ
野村不動産/減少続ける東京都心の『都市農地』 農地の可能性広げる新しい活用法
2024.07.23
「企業独自のサステナブル活動を取材する」という本企画。今回は、一般の方にはちょっと馴染みの薄い“農地”に関するお話しです。日本では、都市部の生産緑地、いわゆる“都市農地”が、後継者不足などで減少の一途をたどっています。 この問題に対して、デベロッパーとしての切り口で取り組みを行っている野村不動産株式会社さんの『都市型体験農園サービス』。サービス開始から丸三年が経過した現在、“農地を活用する”という取り組みの手ごたえについて、住宅事業本部・小林和人さんに詳しく伺います。
―まず、『都市型体験農園サービス』の概要について教えていただけますか?
小林さん:『都市型体験農園サービス』は、野村不動産グループのカスタマークラブ会員向けに開始した顧客サービスのひとつです。JA世田谷目黒さんと業務提携し、世田谷区内2000㎡超の生産緑地を借り受けて管理、会員の方に本格的な体験農業を提供しています。
JAさんによる作付けから収穫までの本格サポートはもちろん、農具の貸し出しや作付けの種、苗、肥料などもすべて含まれていて、初心者さんや小さいお子様連れのご家族などが手軽に野菜作りを楽しめるサービスになっています。2020年から始動し、好評をいただいて今年で4年目を迎えます。
「これまで宅地化をし続けてしまった」という思い
―このサービスに着手された背景について、詳しく教えてください。
小林さん:ちょっと難しい話になりますが、かつて国が都市部エリアの農地は「宅地化すべきもの」と位置づけていた時代がありました。その政策方針に基づき『生産緑地』として固定資産税減免などの恩恵を受けるには、基本的に生涯農業を続けなくていけない等の縛りがあり、一方で農地法により『生産緑地』のままで賃借するには様々な制限があり簡単ではありませんでした。これでは普通の勤め人では無理ですよね。相続を機に、ほとんどの人が土地を手放す流れになっており、都市農地は減少の一途をたどっていたんです。
しかしSDG’sの流れ、環境保全、防災空間確保、農業への理解醸成などの観点から潮目が変化。国は2015年『都市農業振興基本法』、2018年『都市農地賃貸円滑化法』等を施行して、それら規制を緩和し都市農地を様々な方法で保護する方向へ舵を切りました。この方針転換により生産農地の賃借が一部解禁となり、JAさんが世田谷の農地を賃借、我々が運営を行うという形で『都市型体験農園サービス』が実現可能になりました。
JAさんというのは、農家さんで相続などが発生した際に、「農地をどうしたらいいか?」など皆さんの相談窓口になっているんですね。今回、世田谷のオーナーさんは「農業は継げないけれど売らずにすむ方法はないか」というご意向で、JAさんに打診されたことをきっかけに新しい活用法にたどりついた形です。野村不動産はもちろん「土地を買って宅地化する側」ではありますが、「これまでたくさんの農地を宅地化してきたが、他の形で農地に関われないか」という思いがあり、農地の新しい活用法を模索していたんです。
前例がなさすぎて「めちゃくちゃ大変」
―このサービスをはじめるにあたって、大変だったことはありますか?
小林さん:いやもう、めちゃくちゃ大変でした(笑)。新しい法律をベースにした、新しい取り組みなので、とにかく前例がない。『都市農地賃貸円滑化法』に問題がなくても、どこかで『農地法』に抵触するんじゃないかと戦々恐々でした。もし問題が起きたら、被害を受けるのは我々でなく、土地のオーナーさんですからね。もし生産緑地の認可が取り消されでもしたら、莫大な固定資産税が掛かってしまう。本当に責任重大でした。
また、我々の会社自体が農地に関わるには様々な条件があったり、我々担当に農業に関する知識がなかったりと、問題だらけでした(笑)。さらに、このサービスにニーズがあるのかどうかも未知数だったので、社内では危ぶむ声も多かったですね。
JAさんには農業支援をご担当いただき、我々は顧客管理や運営といった部分を担い、関係各所に調整・サポートをいただきつつ、スタートにこぎつけた感じです。今では我々も、「春夏野菜は育ちが早くて手が掛かる」「カリフラワーは廃棄部分が多くて大変」などなど、だいぶ農業にも詳しくなりました(笑)。
経営陣からも太鼓判!
―サービスの実績や手応え、今後の展開について教えてください。
小林さん:結果としては、「楽しい」「初めて知ることばかり」「土に癒される」と高評価をいただいています。開始したタイミングがコロナ禍だったこともあり、アウトドアや食育、手軽に農業に関われるなどの理由で、現在までに約1000組の会員に利用していただきました。顧客満足度も向上、CSRとしても高評価、さらに社内でも「いいことをしているね」という声が多く、事業の収支は別としてそれらの評価で十分な成果が出ていると思います。
2020年にサービス開始、当初はまず3年の業務委託契約だったので、3年経過したときは打ち切りになるんじゃないかと戦々恐々でした。ところが、いざ臨んだ社内会議の席で、経営陣が提携延長が当然という空気だったのは嬉しかったですね。涙ぐみました(笑)。
今後の展開ですが、どこのJAさんでも「農地の後継者問題」という同じ問題を抱えている。この実績を踏まえて、さまざまな引き合いもいただいているんですが、なかなか手が回らない状況です。
社内で事業化しては?という声も多かったのですが、現状ではあくまで顧客サービスの一環という位置づけは保持していくつもりです。このサービスは同業他社さんからの問い合わせや取材も多く、すでに同様のサービスを始めているところもあります。我々は、企業としては“農地を宅地化する側”ですが、このサービスを通し、社会全体で農地活用の新しい選択肢を広げていければいいなと思っています。
―小林さん、貴重なお話しをありがとうございました。
『農地法』に厳しく守られ、一般の人はほぼ関わることのなかった『生産緑地』。都市農地を保持する機運が高まり、今回のような「土地を売る側」「土地を守る側」の異色タッグや、JAさんと一般の方の交流などが実現しました。これを機に、農家さん一般の方問わずさまざまなサービスや事業が生まれ、都市部の農地が実り豊かに継続されるようになるといいですね。
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